距離位相

集合 \( X \) 上の距離 \( d \) によって定まる開球全体を基底として生成される位相を距離位相という。これは、距離 \( d \) によって誘導される位相とも呼ばれる。

距離空間 \( (X, d) \) では、距離 \( d \) を用いて開集合を定義できる。その基本となるのが「開球」であり、距離位相はこれらの開球から構成される。

点 \( x \in X \) を中心とし、正の半径 \( \varepsilon \) をもつ開球とは、\( x \) からの距離が \( \varepsilon \) 未満であるすべての点 \( y \) からなる集合である。

$$ B_d(x, \varepsilon) = \{y \in X \mid d(x, y) < \varepsilon\}. $$

距離位相では、このような開球の合併として表される集合を開集合と定義する。

言い換えると、集合 \( U \subset X \) が距離 \( d \) によって誘導される距離位相で開集合であるとは、任意の点 \( y \in U \) に対して、ある半径 \( \delta > 0 \) が存在し、開球 \( B_d(y, \delta) \) が完全に \( U \) の中に含まれることである。

具体例

最も身近な例として、一次元ユークリッド空間 \(\mathbb{R}\) を考えよう。これは実数直線に通常の距離を入れた空間である。

\(\mathbb{R}\) はすべての実数からなる集合であり、2 点 \(x\) と \(y\) の距離は次のように定義される。

$$ d(x, y) = |x - y| $$

ここで、\(|x - y|\) は \(x\) と \(y\) の差の絶対値を表す。

この距離は、距離の公理をすべて満たしている。

それでは、この距離を用いて開球を作ってみよう。

中心を \(x = 3\)、半径を \(\varepsilon = 1\) とすると、開球は次のようになる。

$$ B_d(3, 1) = \{y \in \mathbb{R} \mid d(3, y) < 1\} = \{y \in \mathbb{R} \mid |3 - y| < 1\} $$

不等式 \( |3 - y| < 1 \) を解くと、\(2 < y < 4\) が得られる。したがって、

$$ B_d(3, 1) = (2, 4) $$

つまり、中心が 3、半径が 1 の開球は、実数直線上の開区間 \((2,4)\) にほかならない。

距離位相の例

\((2,4)\)、\((5,7)\)、あるいは一般の開区間 \((a,b)\) は、距離 \(d(x,y)=|x-y|\) に関する開球、または開球の合併として表すことができる。

開集合

このような開区間全体が、\(\mathbb{R}\) の距離位相の基底をなしている。

\(\mathbb{R}\) において、集合が開集合であるとは、その集合内のどの点を選んでも、その点を中心とする十分小さな開区間を取り、それを集合の内部に完全に収めることができるということである。例えば、\((0,5)\) は開集合である。区間内のどの点のまわりにも、小さな開区間を作っても依然として \((0,5)\) の外には出ないからである。

このように、\(\mathbb{R}\) に通常の距離 \(d(x,y)=|x-y|\) を導入すると、私たちがよく知っている実数直線の標準的な位相が得られる。これが \(\mathbb{R}\) の距離位相である。

距離位相における開集合

距離位相において、部分集合 \( U \subset X \) が開集合であるとは、任意の点 \( y \in U \) に対し、\( y \) を中心とする開球、すなわちある半径 \(\delta\) をもつ近傍が存在し、その開球が完全に \( U \) に含まれることをいう。

言い換えれば、開集合の中では、どの点のまわりにも少しだけ自由に動ける「余裕」がある。

平面では、その近傍は小さな円、高次元では球として表される。

この性質こそが、集合が「開いている」ことを特徴づけている。

次の図は、距離空間 \( \mathbb{R}^2 \) における開集合の例である。

距離位相における開集合の例 

これに対し、閉球は境界も含む集合であり、中心からの距離がある値以下のすべての点から構成される。

閉集合の例

要するに、開集合とは「各点のまわりに、その集合からはみ出さない小さな近傍を必ず取ることができる集合」である。

距離の種類

距離位相は、ユークリッド距離だけから生まれるわけではない。異なる距離を用いても位相を定義できる。

平面 \( \mathbb{R}^2 \) で代表的な距離として、次の 3 つが挙げられる。

  • 標準距離(ユークリッド距離)
    開球は円形になる。この距離は、私たちが通常考える平面の位相を与える。 $$ d(p, q) = \sqrt{(p_1 - q_1)^2 + (p_2 - q_2)^2} $$
    円形の開球の例
  • タクシー距離(マンハッタン距離)
    開球はひし形になる。街路が碁盤目状になっている都市での移動距離を表すモデルとして知られている。 $$ d_T(p, q) = |p_1 - q_1| + |p_2 - q_2|. $$
    タクシー距離の例
  • 最大距離
    開球は正方形になる。一辺の長さは \(2\varepsilon\) である。
    $$ d_M(p, q) = \max\{|p_1 - q_1|, |p_2 - q_2|\} $$
     最大距離による位相の例

開球の形は円、ひし形、正方形と異なるが、これら 3 つの距離はいずれも \(\mathbb{R}^2\) 上に同じ位相を誘導する。

補足

距離位相について理解を深めるうえで、次の定理も重要である。

  • 定理:距離位相の比較

    集合 \(X\) 上に定義された 2 つの距離 \(d\) と \(d'\) が、それぞれ位相 \(\mathcal{T}\) と \(\mathcal{T}'\) を誘導しているとする。このとき、\(\mathcal{T}'\) が \(\mathcal{T}\) より細かいことと、任意の \(x \in X\) および任意の \(\varepsilon > 0\) に対して、ある \(\delta > 0\) が存在し、次が成り立つことは同値である。 $$ B_{d'}(x, \delta) \subseteq B_d(x, \varepsilon) $$ ここで、\(B_d(x,\varepsilon)\) と \(B_{d'}(x,\delta)\) は、それぞれ距離 \(d\)、\(d'\) に関する開球を表す。

    言い換えると、距離 \(d\) の開球の中に、十分小さな距離 \(d'\) の開球を必ず取ることができるとき、\(\mathcal{T}'\) は \(\mathcal{T}\) より細かい位相である。
  • 有界距離定理
    距離空間 \( (X, d) \) では、\(\varepsilon > 0\) に対して新しい距離 \( d'(x, y) = \min(d(x, y), \varepsilon) \) を定義できる。この新しい距離は有界であるにもかかわらず、元の距離 \( d \) と同じ位相を誘導する。したがって、両者から得られる開集合は完全に一致する。

距離位相には、このほかにも多くの興味深い性質や重要な定理が存在する。

 

 
 

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