有界距離の定理

距離空間 \( (X, d) \) に対して、新たな距離

$$ d'(x, y)=\min(d(x,y),1) $$

を定義すると、\( d' \) は有界距離となり、しかも元の距離 \( d \) と同じ位相を誘導します。つまり、\( d \) と \( d' \) によって定まる開集合は完全に一致します。

この新しい距離は、元の距離が 1 以下であればそのままの値を取り、1 を超える場合には 1 に切り詰めます。

$$ d'(x,y)=\min(d(x,y),1) $$

そのため、\( d' \) は常に 1 以下の値しか取らず、有界距離になります。

重要なのは、距離の値は変わっても、位相は変わらないという点です。言い換えれば、空間の局所的な構造や開集合の概念はそのまま保たれます。

注意: 一般には、定数 \(1\) の代わりに任意の正の実数 \(\varepsilon>0\) を用いることもできます。

$$ d'(x,y)=\min(d(x,y),\varepsilon) $$

この場合でも、距離は \(\varepsilon\) を上限として切り詰められますが、誘導される位相は変わりません。以下では、説明を分かりやすくするために \(\varepsilon=1\) とします。

具体例

実数全体の集合 \( \mathbb{R} \) に通常の距離

$$ d(x,y)=|x-y| $$

を考えます。

ここで、有界距離を

$$ d'(x,y)=\min(|x-y|,1) $$

と定義します。

この距離では、どれほど離れた 2 点であっても、距離は最大で 1 になります。

例えば、\(x=2\)、\(y=5\) の場合、通常の距離は \(d(2,5)=3\) ですが、有界距離では \(d'(2,5)=1\) になります。一方、\(x=2\)、\(y=2.5\) の場合は、距離が 1 未満なので切り詰めは行われず、\(d'(2,2.5)=0.5\) となります。このときは元の距離と完全に一致します。

$$ \begin{array}{|c|c|c|c|} \hline x & y & d & d' \\ \hline 2 & 5 & 3 & 1 \\ \hline 2 & 2.5 & 0.5 & 0.5 \\ \hline 6 & 8 & 2 & 1 \\ \hline \end{array} $$

このように、有界距離は大きな距離だけを切り詰め、小さな距離はそのまま保持します。そのため、近傍の構造は変化せず、位相も変わりません。

なぜ位相は変わらないのか

位相における開集合は、開球の和集合として表されます。

半径が 1 以下であれば、\(d\) と \(d'\) の開球は完全に一致します。そのため、各点の近傍構造は変化しません。

例として、中心が 3、半径が 2 の開球

$$ B_d(3,2) $$

を考えます。

開球の定義は

$$ B_d(x,r)=\{y\in\mathbb{R}\mid d(x,y)

です。

この場合は

$$ B_d(3,2)=\{y\in\mathbb{R}\mid d(3,y)<2\} $$

となります。

通常の距離を用いると、

$$ |3-y|<2 $$

であり、これを解くと、

$$ -2<3-y<2 $$

$$ -5<-y<-1 $$

$$ 1

となります。

したがって、

$$ B_d(3,2)=(1,5) $$

です。

数直線で表すと、次のようになります。

数直線上の開区間

\(d'\) を用いる場合は、複数の小さな開球を組み合わせることで同じ区間を覆うことができます。

例えば、

$$ B_{d'}(2,1)\cup B_{d'}(3,1)\cup B_{d'}(4,1) $$

を考えます。

\(B_{d'}(2,1)\) は区間 \((1,3)\)、\(B_{d'}(3,1)\) は区間 \((2,4)\)、\(B_{d'}(4,1)\) は区間 \((3,5)\) に対応します。

これらを合わせると、区間 \((1,5)\) 全体を覆うことができます。

有界距離による開球

このことから、大きな距離が切り詰められていても、局所的な近傍構造は変化せず、\(d\) と \(d'\) は同じ位相を誘導することが分かります。

証明

まず、\(d'\) が距離であることを確認します。満たすべき条件は次の四つです。

  • \(d'(x,y)\ge0\)
  • \(d'(x,y)=0\) となるのは \(x=y\) の場合に限る
  • \(d'(x,y)=d'(y,x)\)
  • 三角不等式を満たす

最初の三つの性質は、元の距離 \(d\) の性質と定義から直ちに従います。

三角不等式については、任意の \(x,y,z\in X\) に対して

$$ d(x,z)\le d(x,y)+d(y,z) $$

が成り立ちます。

\(a=d(x,y)\)、\(b=d(y,z)\) とおくと、

$$ d'(x,y)=\min(a,1), \qquad d'(y,z)=\min(b,1) $$

となります。

また、

$$ d'(x,z)=\min(d(x,z),1) \le \min(a+b,1) $$

です。

さらに、任意の非負実数 \(a,b\) に対して

$$ \min(a+b,1) \le \min(a,1)+\min(b,1) $$

が成り立つため、

$$ d'(x,z) \le d'(x,y)+d'(y,z) $$

となります。

したがって、\(d'\) は三角不等式を満たし、距離になります。

続いて、\(d\) が誘導する位相を \(T\)、\(d'\) が誘導する位相を \(T'\) とします。

半径が 1 以下であれば、

$$ B_d(x,r)=B_{d'}(x,r) $$

が成り立ちます。

実際、\(r\le1\) のとき、

$$ d'(x,y)

$$ d(x,y)

は同値です。

A] \(T\subseteq T'\) を示す

\(U\in T\) とします。

任意の点 \(x\in U\) に対して、ある半径 \(r>0\) が存在し、

$$ B_d(x,r)\subseteq U $$

となります。

ここで

$$ \rho=\min(r,1) $$

とおくと、

$$ B_{d'}(x,\rho) = B_d(x,\rho) \subseteq U $$

となるため、\(U\) は \(d'\)-開集合です。

したがって、

$$ T\subseteq T' $$

が成り立ちます。

B] \(T'\subseteq T\) を示す

同様に、\(V\in T'\) とします。

任意の点 \(x\in V\) に対して、ある半径 \(r>0\) が存在し、

$$ B_{d'}(x,r)\subseteq V $$

となります。

再び

$$ \rho=\min(r,1) $$

とおけば、

$$ B_d(x,\rho) = B_{d'}(x,\rho) \subseteq V $$

となるため、\(V\) は \(d\)-開集合です。

したがって、

$$ T'\subseteq T $$

が成り立ちます。

まとめ

\(T\subseteq T'\) と \(T'\subseteq T\) の両方が成り立つので、

$$ T=T' $$

となります。

したがって、有界距離

$$ d'(x,y)=\min(d(x,y),1) $$

は、元の距離 \(d\) とまったく同じ位相を誘導します。つまり、大きな距離だけを切り詰めても、空間の位相的な性質は変化しません。

 
 

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